見学 小柏研究室

2022/09/17

加賀橋立(石川県・重要伝統的建造物群保存地区)見学

文責:松下裕介(修士2年)

 

石川県には全国最多、8カ所の重要伝統的建造物群保存地区があります。その中で今回は、加賀市に所在する加賀橋立地区をご紹介します。

 

加賀橋立の概要

加賀橋立は江戸時代に加賀藩の支藩である大聖寺藩に属し、江戸後期から明治中期にかけて活躍した、北前船の船主や船頭が多く居住した集落です。平成17年(2005)12月に全国で初めて、「船主集落」として重伝建に選定されました。この「船主集落」とは、北前船の寄港地のように廻船問屋が立ち並び栄えた地域とは異なり、北前船に従事した人々の住居で構成された地区になります。

 

加賀橋立は日本海に面していながら、起伏に富んだ丘陵地に集落が展開しています。地区内部を通る5本の主要道路に面するようにして地割がされていますが、地形の影響によりその形は多様です。明治6年(1872)に集落の約6割が焼失する大火に見舞われましたが、北前船による廻船業が最盛期であったため、それまでより大きな家屋が再建されました。現在に残る多くの家屋は明治の再建によるものですが、明治大火前に作成された「橋立古絵図」と現在の街路や地割がほぼ一致しており、江戸末期からの地区の基本構成が維持されています。

 

廻船業で栄える前の加賀橋立の人々は半農半漁を生業としており、その住居は加賀地域に分布していた典型的な茅葺農家と同じものでした。現在にも残る切妻造、妻入、瓦葺屋根の住居は、天保年間(1830年頃)から建て始められたと言われています。この地区の住居の特徴として、屋根に赤褐色の瓦が葺かれ、外壁は潮風を防ぐために船板を再利用したものが用いられています。

 

見学を通じた所見

今回は地区内を歩いた他、現在は北前船の里資料館として一般公開されている酒谷家を見学しました。

 

地区に入ると赤褐色の屋根と黒みがかった板壁の住居群が目に入り、一目でそれとわかる景観が広がっていました。地区内は案内の看板が立ててあるなど整備されている箇所もありますが、多くは現在住む人々の生活をありのままに伝えていました。見学中も下校中の小学生たちとすれ違い、人々の生活と重伝建地区の保存との両立を感じとることができました。

 

酒谷家は廻船業で巨額の富を築いた船主、酒谷長兵衛が建てた住居です。その間取りは「オエ」と呼ばれる30畳の大広間をはじめ、4つの「ザシキ」や3つの「ナンド」などから構成されています。その広さや数だけでなく、展示品の生活用品1つ1つから、当時の豪勢な生活ぶりを感じ取ることができました。また、「シンザシキ」沿いの縁側は庇と扉によって区切られた室内空間となっており、豪雪地帯の特徴を見て取ることができました。

 

参考文献

・文化庁「重要伝統的建造物群保存地区一覧と各地区の保存・活用の取り組み」(2022年9月8日閲覧)

・苅谷勇雅、西村幸夫編『歴史文化遺産 日本の町並[下巻]』山川出版社、2016年3月

・北前船の里資料館パンフレット