見学 小柏研究室
2025/05/22
湯前神社(静岡県熱海市)見学
文責:熊坂泉美(学部4年)、佐藤すばる(学部4年)
湯前(ゆぜん)神社レポート
2025年4月23日に湯前神社を見学し、主に建築的特徴に注目して観察を行った。
1.概要
所在地:静岡県熱海市上宿町4-12
創建:天平勝宝元年(749年)
祭神:少彦名命(すくなひこなのみこと)
祭祀対象:温泉
社格:延喜式内社(久豆弥神社の論社)、旧村社
兼務社:来宮神社
2.建築様式と文化財
拝殿
湯前神社の拝殿は入母屋造、桟瓦葺きで、軒先には反りがある。屋根には鬼瓦、軒丸瓦、軒平瓦、隅角が見られる。鬼瓦の頭部には右三つ巴紋、二つ雲一文字、吹流し三つ切が用いられている。軒丸瓦には右三つ巴紋が確認できる。妻壁は妻格子で構成され、垂木は二重垂木である。海老虹梁、木鼻、蟇股に彫刻が施されており、木鼻には象や獅子、蟇股には龍が彫られている。正面にはしめ縄が張られており、社号札や奉納札が多数掲げられ、信仰の篤さが窺える。外壁は下見板張りで、建具には格子戸、板戸、引き戸が使用され、窓にはガラス障子と格子窓が見られることから、複数回の改修や拡張がなされた地域神社であると考えられる。木製の縁側があり、床下には束石および礎石が用いられている。
石鳥居(熱海市指定文化財)
安永9年(1780年)に筑後国久留米藩第7代藩主・有馬頼徸(ありま よりゆき)によって奉納されたものである。明神鳥居。石造の明神鳥居であり、鳥居には注連縄が張られ、装飾金具も確認できる。笠木および島木の断面は四角形で、貫が通っている。
石燈籠
鳥居の内側に立つ一対の石燈籠は、宝暦8年(1758年)に同じく有馬頼徸によって寄進されたものである。境内には石造の灯籠が複数確認され、その多くが宝珠を頂く六角形型である。全体的に風化が進んでおり、表面には苔の付着も見られる。一部の灯籠には火袋の窓が円形に造られており、彫刻装飾が施されているものもある。
クスノキ(熱海市指定天然記念物)
樹高約17m、幹周り7.2mに及び、樹齢数百年と推定される。樹幹の二分の一程度が焼損している。
手水舎
熱海の源泉である「大湯」が流れており、その上には温泉の神様として祀られている少彦名命とその妻と子の姿をかたどった小さな像が設置されている。
大湯(おおゆ)間欠泉
現在の大湯は自噴が停止しており、人工的に制御された間欠泉として整備されている。
3.所見
今回の湯前神社の見学を通じて、神社建築の細部に込められた意味や技術の高さに深く感銘を受けた。特に、拝殿に施された彫刻や瓦の紋様からは、単なる装飾にとどまらず、信仰や地域文化を象徴する強い意志が感じられた。また、建築様式や材料の選定にも自然との調和や永続性への配慮が見られ、かつての人々がいかに神聖な場所を丁寧に築き上げてきたかが伝わってきた。
さらに、境内にあるクスノキや大湯の存在から、この神社が自然とのつながりを重視してきたことも読み取れる。文化財として保護されるべき価値に加え、地域の暮らしや信仰と密接に結びついた場所として、今も息づいていることを実感した。
今回の見学を通して、これまで意識していなかった神社建築の意味や文化財の保存の重要性について考えるきっかけとなった。今後も一つひとつの建物の背景や文脈に目を向けていきたい。
参考文献
熱海市公式文化財資料(PDF)
https://www.city.atami.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/001/821/857item_file.pdf
湯前神社/熱海市観光協会公式観光サイト
https://www.ataminews.gr.jp/spot/313
熱海ロマン紀行/熱海市ホテル旅館協同組合連合会