見学 小柏研究室
2025/11/10
元興寺(奈良県奈良市・国宝)見学
文責:岩崎佑亮(修士2年)
本堂(極楽堂):国宝
禅室 :国宝
五重小塔(法輪館収蔵): 国宝
元興寺は、飛鳥寺を起源とし、平城遷都に伴って現在地に再編された寺院であるが、現存する主要建物はいずれも、もとは僧坊だった建物を、あとから礼拝用の堂に作り替えて使っている点が大きな特徴である。
実際に本堂(極楽堂)を見ると、寄棟造・本瓦葺で外観は簡素である一方、柱や梁に時代の異なる材が混在しており、古材の再利用を実感できた。礼拝用建築にしてはスケールがやや抑えられており、もとの僧侶の起居空間を基盤にして鎌倉時代に大仏様的な要素を取り込んだ建築であることが読み取れた。
とくに印象的であったのは屋根である。本堂の西側流れと、隣接する禅室の一部に行基葺が帯状に残され、赤褐色の古瓦が新しい瓦と明確に区別して見えるようになっていた。説明では、そのうち約200枚が飛鳥時代の瓦で現役で使われているとのことで、日本最古級の瓦が使用されている点は、感動的であった。
境内奥の浮図田では、石塔が整然と並び、堂宇の創建期とは異なる時代の信仰が堆積していることがわかった。さらに法輪館で見た国宝・五重小塔は小規模ながら細部が精緻で、かつての元興寺が大寺として高い技術と儀礼空間を保持していたことを示す遺品であった。これらの観察から、元興寺は規模とともに、長い時間の中で更新され続けた建築の層が見られる建築であり、僧坊の聖堂化・古材の再利用・行基葺の部分保存など、奈良時代の建築が、改修や用途の変更を受けながら現在まで使われてきたことを実際に確かめられる事例であった。
参考文献
奈良県教育委員会『元興寺極楽坊本堂・禅室及び東門修理工事報告書』(奈良県教育委員会文化財保存課,1957)