見学 小柏研究室
2026/03/16
旧上野市庁舎(三重県伊賀市 市指定有形文化財)見学
文責:藏重直輝(学部4年)
概要
三重県伊賀市上野丸之内116
1964年建設 市指定2020年
設計者:坂倉順三
写真1 外観写真
旧上野市庁舎は、坂倉準三の設計により、1964年に竣工した。建物はコンクリート打ち放しの列柱や深い軒先によるピロティ、水平連続窓といった様式を基本とする外観が大きな特徴である。
竣工以降、上野市の行政拠点として長らく親しまれたが、新庁舎の完成に伴い2018年に市役所本庁舎としての役割を終えた。一時は解体の案もあったものの、坂倉の建築としての価値が再評価され、大規模な保存・活用に向けたリノベーションが行われることとなった。
外観やトップライト、市長室などの貴重なモダニズム意匠を丁寧に残しながら、2025年7月に観光・文化の複合施設「SAKAKURA BASE」として再生された。
現在は、全19室のスモールブティックホテル「泊船」やカフェなどが営業し、かつての庁舎の空間を活かした新たな賑わい拠点となっている。
さらに2026年4月には施設内に伊賀市の新中央図書館も移転開館する予定であり、歴史的建築を継承する活用を行っている。
写真2 内観写真
所見
外観においては、坂倉準三が設計した当時の姿が維持されている。斜面地に沿って配置された3層のボリュームは、ピロティによる階層の抜けなど多様な手法を用いて明快に表現されている。ディテールに目を向けると、コンクリート打設時に一般的なコンパネではなく、木目が転写される型枠が採用されている点に特筆すべき工夫が見られる。さらに、その木目は単一方向ではなく、部材や場所に応じて方向が変えられており、細やかな意匠の操作がうかがえる。
内部空間は現在、図書館やカフェを併設する観光・文化の複合施設として活用されている。市庁舎として市民に利用されてきた履歴と、坂倉建築としての知名度を最大限に生かしており、コンバージョンの好例として非常に理にかなっていると感じた。
近年、戦後の名建築と呼ばれる建物が改修を試みられながらも、最終的に頓挫してしまうケースが散見される。現行法規への適合が困難な複雑な構造やデザインの建築に比べ、本作のように構造と意匠がともに明快で、後世の手が加えやすい建築こそが、真に改修・継承していくに値する「名建築」であると強く感じた。
写真3 ディテール
参考文献
・TECTURE MAG 『泊まれるモダニズム建築〈泊船 HAKUSEN〉』 閲覧日2026年3月13日
https://mag.tecture.jp/culture/20250729-132176/
・PRTIMES『船谷ホールディングス株式会社 坂倉準三の名建築を再生したホテル『泊船』が開業』 閲覧日2026年3月13日
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000149959.html