見学 小柏研究室

2025/12/02

旧岸邸(静岡県御殿場市・国登録有形文化財)見学

文責:新村恵太(修士2年)

 

 

竣工:昭和44年(1969)

設計:吉田五十八

構造形式:木造平屋建て、一部RC造2階建て、スレート葺

 

 

 

 旧岸邸は、第56、57代内閣総理大臣を務めた岸信介の自邸として、昭和44年(1969)に竣工した。設計は日本の伝統数寄屋建築を独自の解釈で近代数寄屋として提案した吉田五十八である。

 

 世界的に装飾性を排除したモダニズム建築が流行する時代に、吉田五十八は日本の数寄屋建築に着目して、モダニズム的思考で簡素化・合理化を行った。吉田五十八「和装の七紐」(『新装:きもの随筆』,昭和13年,pp137-139)においても、「日本固有の建築には、長押・鴨居・廻縁・竿縁・地袋・違棚といったように横の線が洋室のそれに比べて多い。~中略~ この住宅の紐が目にさはつて、室の明朗さを滅ずること甚だしい。」と和装の紐と比較して述べられており、長押や鴨居といった、横の線を簡素化することを目標に建築を設計した。

 

 1階の和室では、和室の空間に不可欠な横材の長押や内法貫、束、鴨居の存在感をなくすための工夫が見られる。鴨居に関しては、欄間障子の縦框の位置に合わせて鉄筋を入れることで、木材の垂下を防ぎ、極限まで部材を薄くしていた。また、室境の欄間を省略することによって、欄間の荷重をなくして鴨居の垂下を防いでいた。他にも、雪見障子の横桟を組子と同じ細さの材を利用し、また、縦桟の太さと畳縁の太さを統一することで、視覚的にも洗練された意匠へのこだわりが見られた。

 

 また、現代の生活の必需品である空調設備を伝統衣装に取り込むために、地袋の中に空調機を納めていた。地袋の建具をルーバー状にすることで、機能面を維持しつつ、意匠を損ねない工夫が見えた。

 

 居間や食堂の開口部では、外部空間との連続性を高めるために、壁へ引き込む押込戸を採用している。雨戸、網戸、ガラス戸、障子戸をすべて開放した際に戸袋がないことで、視界を遮るものがなくなり、開放された空間が半屋外のような状態となる。食堂の建具枠に関しては、極限まで薄くすることによって、内外の境界を感じさせない工夫をしていた。また、これらの建具には、数寄屋の意匠を利用しながらも、現代的な工業生産されたアルミサッシを適材適所で利用しており、伝統意匠の中に現代の技術を取り込む手法を見ることができた。

 

 

 

 

 

参考文献

・文化遺産オンライン(2025.12.01閲覧)

・東山旧岸邸HP https://www.kyu-kishitei.jp/(2025.12.01閲覧)