見学 小柏研究室
2025/10/06
由布市ツーリストインフォメーションセンター(大分県由布市)見学
文責:熊坂泉美(学部4年)
1. 概要
所在地:大分県由布市湯布院町川北8-5
構造:木造、鉄骨造
延床面積:533,7㎡
竣工:平成30(2018)年4月
設計:坂茂建築設計
施工:森田建設株式会社
由布市ツーリストインフォメーションセンターは、由布院駅舎に隣接して建てられ、市内や県内、さらに九州全体の観光情報を提供し、インバウンド対応の観光案内所としても機能している。磯崎新が設計した駅舎に対し、正面から競い合うのではなく、独自の空間体験を持ちながら調和を目指した建築として計画された。
2. 建築の構成と設計思想
由布市ツーリストインフォメーションセンターは、木造と鉄骨造を組み合わせた混構造である。湾曲させた大断面集成材を束ねたY字型の柱によって屋根を支える。柱は4方向に分岐し、平面では十字形を構成する。これを4,500mm間隔で規則的に並べることで、内部に木々が林立するような空間がつくり出されている。坂茂は、磯崎新設計の湯布院駅舎という象徴的建築の隣に建つことを強く意識し、「対抗することなく、また迎合することなく」存在することを目指した。そのため、単純な直方体の形態にY字型の木柱を組み合わせる構成を採用し、駅舎の象徴性に依存せず、独自の体験を提供する建築を成立させている。上部ではアーチ梁と緩やかな二次アーチ梁が交差し、連続する曲線が山並みを思わせる立体感を生み出している。外壁は全面ガラス張りで構成され、内部から由布岳や町並み、駅を出入りする列車を眺めることができる。逆に列車の窓からは町並みを含む景観が建物越しに見え、風景の抜けを意識したつくりとなっている。
建築は「観光案内所」という機能を超えて、風景や人々をつなぐ場として計画された。駅舎、列車、町並み、由布岳が一つの視界に収まるよう設計されており、訪れる人々に土地の印象を強く与える。また、施設のアイデンティティを高めるために、愛称「YUFUiNFO」やVIカラー「空色」が導入された。空色は由布岳を背景に見た空の色に由来し、地域の風景と調和するシンボルとなっている。さらに、内装デザインはJR九州の列車デザインを手がけた水戸岡鋭治が担当し、旅行者と地域住民が自然に交流できる雰囲気を形成している。
3. 所見
実際に見学して、柱や梁の構成が特に印象に残った。湾曲した大断面集成材による十字柱とアーチ梁が重なり合い、等高線のような曲線が空間に広がっていた。これは由布岳を正面に捉えることを意識した構成とも読み取れ、地域の自然環境と建築が呼応していると感じられた。建物全体は、ガラスの箱の中に木の柱を収めたような単純さを持ちながら、木の重厚感とガラスの軽やかさの対比によって均衡が保たれていた。アーチ梁は、隣接する湯布院駅舎のクロスヴォールトとも呼応しているように思えた。「1階はにぎわい、2階は癒やし」というコンセプトに基づき、スロープで両者を緩やかにつなげる構成が採られている。
総じて、この建築は旅行者が単に情報を得るための場にとどまらず、土地の景観を体験し、地域の人々と交流できる拠点として機能していた。由布院観光の理念である「自然・環境・景観を資源とし、人と人の交流を通じて価値を育む」という考え方を、建築そのものが具体的に体現していると感じられた。
4. 参考文献
[1] 大分県観光情報公式サイト 由布市ツーリストインフォメーションセンター
https://www.visit-oita.jp/spots/detail/8595 (2025/09/03閲覧)
[2] 新建築データ 由布市ツーリストインフォメーションセンター
https://data.shinkenchiku.online/projects/articles/SK_2018_05_060-0 (2025/09/03閲覧)
[3] YUFUINFO 由布市ツーリストインフォメーションセンター(TIC)
https://yufuin.gr.jp/spot/spot-2280/ (2025/09/03閲覧)
[4] 日経クロステック 「由布院駅前に森のような空間、設計は坂茂氏」
https://share.google/nuhHHssAsUv5ci7YD (2025/09/21閲覧)
[5] 大分県由布市公式ホームページ https://www.city.yufu.oita.jp/ (2025/09/21閲覧)